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気になる邦楽アルバムを中心に音楽レビューをしていました。

 

吉澤嘉代子「魔女図鑑」 

魔女図鑑
吉澤嘉代子「魔女図鑑」
埼玉出身の女性シンガーソングライター、吉澤嘉代子の1stミニ。
当ブログでも2カ月くらい前からこっそりと紹介していた待望の作品。まだ6月の話ですが、今年良かった新人は?と聞かれたら、私はまず彼女の名前を挙げることになると思います。舞花、山崎あおい、おおたえみりらを輩出したミュージックレボリューションのグランプリ獲得という輝かしい経歴のある彼女。今作は、井上陽水、松任谷由美などの往年のポップスの影響を多分に受け、懐かしさと新しさ、初々しさと貫禄さえも入り交じった名盤だと思います。

タイトルは魔女になりたかった少女の頃を顧みて付けたものらしく、それぞれの曲にも個性豊かな魔女的(?)なキャラクターが登場します。"魔女"というキーワードは最近の女性SSWには多く見られるテーマの一つかもしれません。当ブログで紹介した中でも、大森靖子は"魔法が使えないなら死にたい"と歌い、柴田淳も「魔女の話」という曲を出した。もはや私の中では個性的な女性SSWはみんな魔女そのものに見えて仕方がないわけです。

それでは本編の話。
「未成年の主張」はタイトル元はTV番組"学校へ行こう"の名物企画からそのまま取った模様。屋上から叫ぶやつ懐かしいですね。あの頃は健全でしたよね、この番組。ちゃんと学校にも行ってましたし。脱線しましたが、そんな企画を思い出す、未成年の初々しい恋の告白がモチーフになっている曲。曲調はルージュの伝言を彷彿とさせる懐かしさがある。MVを観て速攻で虜になってしまった。思いを伝えるのに億劫になる様がコミカルでなんとも可愛らしい。平成生まれ女子とは到底思えない感性を歌い方から強く感じる。さらに可愛い中にも毒がある。"屋上じゃなくても"とか"やらせを廃止にさせて"とか番組批判のように聞こえてしまうのは邪推か。そして"電線を綱渡り あなたの部屋の窓を コンコンコン"っていうのも現実だったらかなり怖いぞ(笑)
「化粧落とし」はコミカルさにさらに拍車がかかる。別れたのか、そもそも付き合ってもいなかったのか、もはや面識すらないのか。状況を深読みすればするほどドツボだが決してドロドロしたものではなく、もはやコントの域の言葉選び。サビのインパクトも強烈。妙に迫真ある雰囲気で男声コーラスまで入れてくるあたりのセンスが谷山浩子っぽくもある。とても新人の所業とは思えないのですが。
「恥ずかしい」は何がそんなに恥ずかしいのか、くすぐったい感覚のまま終わる曲。彼女自身、歌うことが恥ずかしいことらしい。こんなに歌っているのに?と思ったが分からなくもない。ついた嘘がすでにバレていて知らないふりをしてくれていたら、そりゃ"嗚呼"と叫ぶかもしれませんね。
「らりるれりん」は穏やかな曲調だがホラー曲らしい。もうそういうコワイのやめてよ、好きになるじゃん。彼からかかる電話のベルが鳴るのが待ち遠しくて何でもベルに聞こえてしまう。幸福感が溢れているように聴こえるのだが、いつまでも鳴らない、鳴るはずのない電話を待ち続ける女子の姿を想像すると、粘着的なストーカーどころか病的で怖い。なんか最近も聴いたことある曲調だなあと思ったら、禁断の多数決「Sweet Angel」に似てなくもない。
「泣き虫ジュゴン」からの2曲はここまでの4曲とはムードが一変。一気にしんみりする。制作時期が古い曲らしく、一番彼女の本心に触れている曲だと思います。というか前半4曲は道化を演じているみたいで、本心がそもそも隠れているかも分かり辛いが。ぎこちない歌い方をしてるのは"泣き"を演じているからでしょうか。ラストの"海のなかでなくんだよ そうしたら誰もわかんない"は今作随一の秀逸な詞。
「ぶらんこ乗り」は絵本のような世界を描くこれまたセンチな曲。ネタ元は同名の小説らしく、物語的ではあるがほとんど展開を変えることなくじわじわと切なさがこみ上げてくる曲。男声コーラスが入る終盤は鳥肌モノ。合間合間に入るフルートも良い。ストレートに伝わる詞ではないのに、なんでこんなに感情移入したように哀愁に浸れるのか、まさに魔法をかけてくるような曲。

音楽的には誰しもがまず懐かしいという感想が出てくるであろう作風で、昭和を全く生きていない女の子がこの時代にこんな音楽を作るのかということにまず驚きました。同世代でも明らかに感性が違う存在ではないかと。アレンジは制作陣にいろんな人が関わっているだけにどの曲も芸が細かい。個人的に気になった名前はキンモクセイのドラム張替さん。1曲目と4曲目で叩いています。確かにこの音楽はキンモクセイとも相性抜群ですね。復活してくれないかなあ。
歌詞について、言葉選びは古風に感じる部分も多々あるが、流行に流されない普遍さがあるとも言えるでしょう。特に前半の曲はいい意味でツッコミどころ豊富で、聴き手側の想像および妄想が膨らんで楽しめる余地がある。自身のパーソナルな部分を描くよりも、こうやったら面白いだろうという作家的な側面の方が強い。魂の叫びみたいな熱いのはちょっとさらけ出し過ぎて恥ずかしいなという照れみたいなのがあるのかもしれませんが。まあ私はこういうスタンスの音楽の方が好みです。
熱くなりすぎて長々と書きましたが、日本語ポップスの素晴らしさを再認識できる一枚。これは売れて欲しい!

★★★★★


全曲、リリックビデオがyoutubeにアップされている大盤振る舞いぶり。
でも私は久々に発売日前日にCDを手に取っていた。そのくらいす、好きです。


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