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気になる邦楽アルバムを中心に音楽レビューをしていました。

 

きくお「きくおミク3」 

きくおミク3
きくお「きくおミク3」
VOCALOIDプロデューサー、きくおのVOCALOID作品の3rd。
ボカロ作品のレビュー通算3作目。独自の世界を構築するボカロPの中でも一二を争うくらい好きなのがこのお方。幻想、狂気、独特の宗教観、死生観による唯一無二の世界にトリップさせてくれる怪盤です。

冒頭の「無重力になって」はわずか44秒のイントロだが、浮遊感と不安感が同居する良い始まり。
「愛して 愛して 愛して」は様々な音がキラキラと入る曲。と書けばなんだかワクワクしそうだが、狂気的に愛を求めるメンヘラな感じの曲。"呪いの首輪"というフィクションなワードを冒頭に出しておきながら、中盤から"いい成績"、"体育館裏"とか学校というリアリティのあるシチュエーションに持って行きノンフィクションとしてのホラー度を高める。
「しかばね音頭」は彼の得意ジャンルの一つであるメルヘンホラー曲。こちらはリアリティが一切なくスリラーやハロウィンな感じのノリで楽しめる。"チャチャ ウッ"が可愛いのは自明。

「真冬の娘」は純なラブソング解釈でよいのかよく分かっていないが、とりあえず寒さの中で死ぬというエンドを予期させて終わる曲。歌詞にそこまでパンチがないためか周りに比べるとインパクトが薄い。
「異形の精霊」は"精霊"に"メタモルフォーゼ"する可愛い系メルヘンチック曲。可愛いの押し売りな感じが同じくVOCALOIDプロデューサーをやっているMOL.の曲を思い出す。この人も好きですが。さりげないベースのフリーダムな仕事ぶりが良い。Dirty Projectorsに通じるものがそこはかとなく感じられる。結局、形を変えてもあなたを思い続けますみたいな詞だと解釈するとコワイわけだが。
「君はできない子」は既に動画投稿されていた曲。母子の関係を歌っているのかは分からないが、母性愛的なものを感じる。素朴なメロディーが素敵。歌詞解釈がいろいろできそうだが、終盤の展開にはストレートに切なさがこみ上げてくる。
「夜のうた」は"夜"をひたすらに連呼するサビが印象深い曲。なんぞこの中毒性。詞はかなり抽象的なので、何の歌なのかと訊かれたら「夜のうた」ですとしか答えようがない。闇夜を自由に飛び回る不思議体験。夜がゲシュタルト崩壊。

「てんしょう しょうてんしょう」はRPGのラスボス登場シーンに使われるような荘厳でリスナーを絶望の淵に追い詰めるような名曲。ダブステップも取り入れたトラックメイキングが抜群にカッコいい。si_kuさんのアートワークも凄まじい。詞には輪廻転生のような宗教観を感じるが、まずはそのサウンドにそそられる。初音ミクだから云々で敬遠しているような人にも是非お薦めしたい。好きか嫌いかは別にして心は揺り動かされるはず。
「ライ ライ ライ」は花たんというニコニコ動画の歌い手に提供した楽曲だったらしいが、それを初音ミクに歌わせている。これまた強烈。自暴自棄的で負のエネルギーをこれでもかというくらい発散させて"ゼロ"にしようとしている。アレンジが凶暴かつ複雑かつ流麗ってもう何なんですか。
「サクラノ後夜」はナノウの「サクラノ前夜」という曲に対する続編のような位置付けという明快なテーマの下制作されているのだが、やっぱり一筋縄ではいかないのが彼らしい。風景描写の美しさと人間の醜さが共存する世界。そこから"君と僕"の"ふたりの世界"に入り込んで…平たく言えばJ-POP的世界観と観念は相通じるところがあるのだが、この人が今更それをやると意味深度合が違ってくる。

あとは、「月の妖怪」、「メトロポリタン美術館」、「塵塵呪詛」という既発曲のRemix版が3曲入っている。「メトロポリタン美術館」は『みんなのうた』のあの曲です。確かにさらっとホラーなこの曲は彼の作風ともマッチしているのでは。多分、谷山浩子とも相性は良い。同曲をカバーしているやくしまるえつこと同じ路線ということか。他2曲は前作までにオリジナルが収録されている曲であり、それなりに良いのだが、オリジナルが良ければそれで十分という私の志向としては別の曲が入っていた方が満足できた。

サンホラほど無慈悲に人死にが続出するわけではないが、死を連想させる曲が非常に多いため、毛利蘭レベルの耐性がないと受け付けない可能性は十分ある。死というのを人生最後のイベントとして最もインパクトを持ったテーマであると捉えて曲を作っているような気がする。歌詞としてはその他にもネガ寄りな言葉選びが多いのだが、それらをネガなもの、忌み嫌うべきものとして捉えている節はほとんどないのが特徴的。死に対する恐怖心を煽るというより、死後の快楽に浸るような空想世界が描かれがちである。無生物である初音ミクが、現実の問題ではなくあくまでも幻想、妄想の世界ですよというオブラートに包む工程に一役買っているようにも思う。まあそれでもマジョリティになるかどうかは分からないが。
音楽的な部分はゲーム音楽の影響は本人談の通り明白だが、その他にもエレクトロニカ、アンビエント、ビート系と細分化し始めると私の手には負えないジャンルからの吸収率も高く、アウトプットとしては至ってポップに聴こえるようにしているのが実に上手い。自身がVOCALOIDで作りたいのはこういう音楽なのだろうが、おそらくニーズに対して様々な曲が書けるタイプの万能型の作曲家である可能性が高い。有象無象のVOCALOID動画の中でも異彩を放つ存在。VOCALOID入門としてお薦めするにはハードルではなく棒高跳びをやらせるくらい敷居は高いが、VOCALOIDに対するネガな先入観を持っている人に一泡吹かせることができると確信した一作。

★★★★☆


こんな奴に勝てっこねえよ…


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