ハナエ「上京証拠」

ハナエ「上京証拠」
福岡出身のシンガー、ハナエの2nd。
毒可愛いの境地。
前作「十戒クイズ」に引き続き、全編真部脩一プロデュース。『kawaii』のポップアイコン的な存在として微笑ましく聴いていた前作に比べると、より素の表情を見せた作品になっています。
冒頭の「EXODUS」はテクノポップ+ヒップホップな曲。今作のタイトルに沿って"上京"をテーマにしており、早速彼女のパーソナルな部分が垣間見えてきます。『私がバカに見える歌詞書かないでよね、ったく…』というアドリブめいた毒っぽいセリフが最後に放たれるのですが、ここも作為的なのでしょうか。
「神様の神様」は「神様はじめました」の流れを汲むシングル曲。雅で華やかなアレンジにキュートさもあってグッド。「それってMagic」は日常風景をウィスパー度高めであざとく歌うタイプの曲。「Rainbow Love」も純粋にkawaiiを前面に出したタイプであり、さらにテクノポップ寄りに。
中盤はいかにも相対性理論っぽさを残した流れになっていますね。イケメンという言葉が蔓延っている中「ハンサム」なんて曲を出してくるあたりはへそ曲がりでいいなと。「インテリジェンス」も"IQ306"とか言っている時点でお察し(ryみたいな一芸必殺の曲で、理論の初期の作風とも被ります。「Dear My Hero」に至ってはノリが良くなった「小学館」ですし。
出オチタイトルの「フィクション大魔王」は歌詞の中身も語感を重視しておりテンポの良い作り。でも、このあたりの言葉選びはえつこ嬢の方がやはり上手い。「おとといおいで」は今作で最も棘がない癒し系ソング。よく考えたら喧嘩の文句が根源なのに不思議で、こちらは良い捻り方をしていたと思います。
ラストの「S-T-A-R-S」はラップを全面的にフィーチャーした異色作。センチなトラックに対して歌詞はこれまで以上に攻撃的なフレーズが多くなっています。アウトロではラジオDJとの他愛のないトークが展開され、やけにオーラス感のあるアレンジに。ウィスパーボイスで罵られたい人におススメ。
福岡から上京してきた少女の思いを汲み取った2曲が作品の最初と最後を担っており、単なるシュール可愛い路線に留まらない余韻を残してくれます。これまでのイメージとは違う乱暴な言葉遣いを含んだ曲もあって驚きましたが、毒っ気のある部分も見せてアイドル的な側面をあえて壊しにいくという試みは面白いと思います。音楽的には、エレクトロ要素が強くしてみたりラップを導入してみたり、と新しいことをやろうとしている思惑があるようです。ただ、純粋なメロディーの良さでは前作の方が全体的に上かな。ウィスパー系のラッパーも最近増えていますので、ガチで対抗するのも厳しい気が。ラップ系の2曲については、彼女と真部さんのプロレスを見せられているような感じがしました。真部さん的に、彼女を自分の手の中で踊らせたいという欲望と保護者のように成長を見守りたいという愛情があるようにも見えます。傍から見たら限りなく変態に近いですが、変態と天才は紙一重ということで大目に見ます。
★★★★☆
箱入り娘ver.
不良少女ver.
GARNiDELiA「Linkage Ring」

GARNiDELiA「Linkage Ring」
女性ボーカリストのメイリアとコンポーザーのtokuによるユニット、GARNiDELiAの1stフル。
アニソン界にもEDMの波が。
「SPiCa」等のボーカロイド曲でも名を馳せている『とくP』によるユニット、と説明するとニコニコ動画発アーティストという感じがしますが、実はプロとしてのキャリアも長い2人。デジタルサウンドを軸に密度の高い曲を取り揃えております。
本格派EDMの様相を呈した「PRIDE」に始まり、空を突き破るような疾走感が気持ち良い「True High」、エレクトロな音をこねまくった「Gravity」と序盤から飛ばしていきます。「BLAZING」はシングルの中で一番好きな曲。テンポよくキャッチーなメロディーを敷き詰めた展開は見事。
中盤はシングル曲のイメージとはかけ離れたアプローチの曲が多く、「フタリ座流星群」はガーリー度高めの歌詞にポップな曲調、「Moon Landing」や「march」は包容力を感じる優しめのタッチの曲が連続しています。「march」のストリングスを導入した間奏は好きですね。前半のクライマックス部分と言えそう。軽快でポジティブなダンスナンバー「Steps」はこのイントロからそのサビに行くか?という意外性もありました。
1曲目に雰囲気が近いデジタルアレンジの「Lamb.」以降の終盤は、シングルパワーもありクライマックスに向けて一層盛り上がった構成に。和風ロックの要素が強い「オオカミ少女」は今作で最もリピート率が高い曲かも。やはり民族要素が入ると安心するというか。ここから、シングル曲である「grilletto」、「ambiguous」が並ぶのは強力ですね。2曲の違いが分からなくなることがありますが。ラストのバラード「LiNKAGE」まで一貫して天体をモチーフにしているのは分かりやすくて良いです。
音楽的特徴をラフに言うと、CAPSULEよりもキャッチーで、fripSideよりもパワフル。まさにアニソンといったスケールの大きいアッパーな曲もあれば、スタイリッシュなダンスミュージックとしてフロアで流せそうな曲も収録。ボーカルのメイリアさんはハイテンポ楽曲に対しても音程を正確に取れる正統的な上手さがあります。逆に、歌い分けや声自体に突き抜けた特徴がないのが残念な部分とも言えますが、この辺は楽曲次第というところでしょうか。1曲目からゴリゴリのEDMを展開させた挑戦意識は買いたいですね。
★★★★
ダンスもやるのね。
植田真梨恵「はなしはそれからだ」

植田真梨恵「はなしはそれからだ」
福岡出身の女性シンガーソングライター、植田真梨恵のメジャー1st。
魅力満載のガーリーポップス&ロック。
長いインディーズ時代を経て、待望のメジャーでのアルバム。キュートなルックスとボーカルに、メロディーセンスの良さも相まった楽曲の数々を楽しめます。
いきなりキャッチーな曲が続く序盤。リード曲「FRIDAY」は緩急のあるロックアレンジが妙味。シングル曲「彼に守ってほしい10のこと」はタイトルの押しつけがましさこそ気になりますが、サビの爆発力は至って爽快。「hanamoge」は語感重視のテンポの良い曲ですが、ハナモゲラとの関係性は謎。「支配者」はエモさ抜群で力強い主張が窺えます。あくまでもセカイ系といったニュアンスも。
バラエティ豊富で少し落ち着いた印象のある中盤。心地よい眠りに誘ってくれるアコースティックな「昔の話」、メルヘンで少々奇抜な展開にぐいぐい引き込まれる「a girl」、ストレートな恋心を可愛らしく歌う「プリーズプリーズ」と続きます。"空っぽに塗りつぶした ペースト状の私たち"という表現が印象深い「ペースト」は、流れゆく世界の中でアイデンティティを持とうとする意志を感じる曲でアレンジもなかなか。
勢いのある終盤。「ザクロの実」はピアノがフィーチャーされたシングル曲。畳みかけるようなサビに必死さがあって良いのです。全編平仮名表記の歌詞の爽快パンキッシュナンバー「泣いてない」は木村カエラあたりが好きならハマりそう。「カルカテレパシー」はメルヘンな世界を元気よく足踏みしながら進んでいくような曲。
ラストの「さよならのかわりに記憶を消した」は哀愁漂うストーリー性のある曲であり、ここまでのウキウキルンルンな気分が一気に引き剥がされます。ミニマルなピアノのフレーズと寄せては返す波の音、そしてこれまで以上に華奢に聞こえるボーカル。1曲でこんなにも世界をガラッと変えられるセンスに脱帽せざるを得ませんでした。
いろいろとツボを刺激してくれるギター少女。メロディーの作り方がとにかく好きで、ファルセットを多用するボーカルは聴いているこちらも胸が詰まるくらいになることもありますが、可愛いので良いです。ファンシーで乙女な部分を見せながら、他者を介すことで自己を見つめ直すような真面目な側面も多く、甘ったるいラブソングに行き過ぎない点も好感が持てます。特に、ラストのような切迫感を出されるとたまりませんね。声質的には、川本真琴並にぶっ飛んだ部分が出てきたらさらに面白くなりそうだなと思う次第です。
★★★★☆
まずはきいてみるのだ。