FLiP「LOVE TOXiCiTY」

FLiP「LOVE TOXiCiTY」
沖縄出身の4人組ガールズバンド、FLiPの3rd。
オルタナ系の新星が続々と出てくるガールズバンドシーンの中で、ちょっと先行して走ってきたFLiPの約1年ぶりの新作。今作は全曲セルフプロデュースという気合の入れようで、男性ロックバンドに引けを取らない安定したカッコよさをまざまざと見せつけた秀作となっております。
「Tarantula」はタイトルのtoxicity(毒性)とリンクしており、毒蜘蛛のタランチュラをモチーフにエグいフレーズ連発の壮絶スタート。痺れるという表現がマッチするカッコよさ。どくけしかまひなおしを下さい。
「カミングアウト」はリード曲。唱歌のような節回しが印象に残る。この擦れた感じ良いですよ。ダークサイドに堕ちてますねえ。タイアップがもらえない過激さがありますが、振り切れていてこれで良いのです。やけどなおしも要るな。
「ニル・アドミラリ」は『何事にも驚かない』という意味のあるタイトル。いやはや飛ばし過ぎ。ここまで息つく暇のない流れ。骨太なサウンドに力強いボーカルが板につく。
「Raspberry Rhapsody」も熱が冷めることなくコーラスつきの良いイントロから始まる。歌詞は日本語と英語が入り混じり過ぎてあまり行間を読むタイプのものではなく、語感を楽しめればいいかなくらいの感じ。日本語の部分をある英語に聞こえるようにしている意図も感じる。
「darkish teddy bear」はアコギのリズムが好き。ここまで熱の帯びた作品で走ってきたが、ちょっと弱気になった模様。女の子ですから。
「a will」と「永遠夜~エンヤ~」は中盤の核となる比較的しっとり系のバラード。ボーカルの伸びのある声に少々憂いも交えていて良い。この辺りの表現力も上がったなあと思う。5分超の曲をここだけ連発するという構成は面白いが、間延びして聞こえる可能性もあるので評価が分かれそう。
「Dear Miss Mirror」は大人しいA,Bメロから"oh no!"で始まる激しいサビが炸裂して爽快。言葉選び的には小南泰葉とかに近いが、より端的に言葉を並べているだけの感じもする。まあ分かりやすいんだが。
「二十億光年の漂流」はえらく壮大なタイトル。いちいちイントロがカッコいいんだよね。爆発力のあるサビへの持って行き方はやっぱりメジャーバンドっぽい。
「Log In "Rabbit Hole"」はおとぎ話な世界観で、控え目な出だしからサビで一気にテンション全開になるダンサンブルな曲。この手の展開の曲は滅法強い。ライブ映えしそう。
「Bat Boy! Bat Girl!」は厨二ワードをここぞとばかりに散りばめた感のあるラスト曲。かなり手堅い作り。最後だからしっとりまとめようという気概は一切なくて清々しい。
メジャー、しかもソニー系レーベルにいながら、シングルのリリースを経ることなく今回はアルバムを制作。そのためこれまでの作品と比べると華のある絶対的な曲が存在しないようにも見えるのだが、そんなことは杞憂だった。浮きやすいシングル曲がない分、逆にアルバム構成が上手くなったとさえ思う。序盤にいきなり山を持ってきて、中盤に谷を作り、また終盤に向けて山を作るイメージ。多分、セールス的には注目度が低く前作より落としている可能性が高いが、いぶし銀で良い渋さのある作品だと評価したい。
男性顔負けの荒っぽさを出しながらも女性的な繊細さも巧みに織り交ぜており、男声ロックでは行き届かない領域を上手く表現できている。"毒"というバリバリのダークサイドぶりをタイトルに掲げているのだが、ジメジメした曲は一切なく気持ちの良い余韻に浸ることができる。元々上手いとは思っていたが、やっぱりボーカルが素晴らしいですね。サウンドはあえてだと思うが手数を減らして、ここぞというところでボリュームを上げる程度にしており、これまで以上にボーカルが映えて聴こえる曲が多かった印象。変則的で予測不能な音楽性を有するバンドが数を増やしている中、彼女らの音楽は割りと正攻法でこうと決めたら一直線に突き進むくらい分かりやすい曲の構造をしている。沖縄の県民性だと思うが、ここの出身者はあまり捻くれた音楽を作っている人がいない印象がある。本来の正統派ロックンロールを地で行くと言えばいいのか、ある意味貴重な存在だと思います。
★★★★☆
R指定しなくて大丈夫?
近藤晃央「ゆえん」

近藤晃央「ゆえん」
愛知出身の男性シンガーソングライター、近藤晃央の1st。
2012年にデビュー、ここまで3作のシングルを出して今回のフルアルバムをリリース。26歳と遅咲きのデビューだと思っていたが、本格的な活動は23歳からスタートしているという珍しい経歴の持ち主。編曲家陣が島田昌典、江口亮、亀田誠治といったいきものがかりとモロ被りな豪華ぶりから、内外で期待度の高いSSWだと思います。
クラシカルなイントロパートの「ゆえん」からシングル曲「フルール」。出た、鉄板のコード進行。2,3年に1回は聴くであろうメロディーだがこれでデビューしたんですよね。なんというかある意味堂々としている。哀愁漂うドラマチックな曲でインパクトはある。有線で流れたら耳に引っかかる曲ではありますね。
「テテ」はノリの良いラテン歌謡ナンバー。この手の曲は初期の島谷やポルノが得意としていた気がするが、だいぶ濃い味付けで作ってきてるな。こちらも既聴感はあるが勢いで押し切った印象。
「つづる」もシングルっぽい匂いがするがアルバム曲。歌詞の中にやたら「」と『』と””が出てきてちょっとウザい。そんなに強調せんでも。
「らへん」は"そこらへん"から"らへん"だけ抜粋するという斬新タイトル。一文字変えればホラー一直線だが、そんなことはつゆもなくまったり系ラブソングな仕上がり。曲構成は6分の長尺なだけに展開には気を使って終盤は盛り上げに徹底している。
「反射光」はSchool Food Punishmentの第5のメンバーとしてもお馴染み(?)の江口亮の編曲。この曲を最初聴いた時に吹き出しそうになった人間は恐らくそんなにいないと思うが、思いっ切りアレンジが江口江口していた。ここまで自分の色を出している編曲は他では聴いたことがないなあ。la la larksでやりなさいよ。アレンジのことを気にし過ぎて完全に他が入ってこない。編曲が作曲その他を食ってしまった。
「しるべ」はスキマスイッチ+いきものがかりな感じの爽快ナンバー。江口氏がいきもの同様のアレンジに戻したため至極穏当な出来になっている。
「エーアイ」は激しめロックナンバー。江口無双が続く。影響元はバンプあたりだろうか。今やありふれたフレーズではあるが"相対性理論"とか若干堅めのワードが飛び出したと思って期待して聴いてみたが、後半は平易なものに戻る。惜しいなあ。ただ彼に求められている言葉はそういう堅いものではないのだろう。
「100年後」は厳かな合唱隊のコーラスも交えた一旦締めの雰囲気の曲。この辺、振り幅が激しい。
「HONEY」は"ダーリン"と"ハニー"というフレーズが炸裂しまくるラブソング。角砂糖をガムシロップで煮詰めたくらいの甘口。摂取し過ぎると体の調子がおかしく…うっ。
「運命共同体」も言葉の違いこそ若干あるが、前曲とほぼ同じ流れな曲。ここまで散々曲調をあの手この手変えてきておいて、なぜここで似た曲でけしかけてくるのか。
「仮面舞踏会」はロック曲でやはり江口編曲。少年隊の曲がどうしても浮かんでしまうが、これはこれで良いのでは。でも心なしか曲似てないか。言葉で語るより音で語る曲の方がいいわけだが、音の実権を握っているのは彼ではないんだよな…
「ハッピーエンドワールドエンド」は少々のエレクトロを交えたSFPチック曲。江口氏、いきものの時より伸び伸び仕事してないか?
「わらうた」はいきものがかりの「いろはにほへと」みたいな雰囲気のほんわか曲。タイトルの意味は"笑い"から取っているということでOK?
ラストの「幸福論」は6分半の大曲。おー最後に凄いデザート来たぞ。RADWIMPSみたいなある種の気持ち悪い曲を想像したが、案外さらっとしていた。逆にスルーしてしまう詞なのも問題あるが。
良くも悪くも教科書通りにJ-POPを作れる優等生的な作風であり、いきものがかりやスキマスイッチといった2000年代以降のメジャーなJ-POPが好きなら受け入れやすい音楽ではあると思う。言葉は悪いが、往年の歌謡曲やJ-POPのオイシイ部分を上手く抽出してキャッチーな曲を作っている印象。新規性はないが外れもないという具合。音楽的には違いがあるが、振り幅が広いのは、大塚愛を男性版にしたような感じもする。大塚はもっとふざけた方向に振り幅があるが。男性SSWとしては、星野源や高橋優のような個性派というより、どちらかと言えばナオト・インティライミとかに近い。
メンツの豪華さによる先入観を抜きにしても編曲の貢献度が相当高い。これを例えば彼のギター一本で表現したとしてもインパクトの弱くなる曲がほとんどだと思う。特に半分以上の編曲に携わっている江口亮氏はゲシュタルト崩壊するくらい上に書いてしまったが、かなり濃い味付けをしている。ボーカルはスキマスイッチの大橋氏を細くしたような感じだと思った。実際、凄く近いと思うフレーズがいくつかあった。声質的に言葉も聴き取りやすいし、曲に対する相性も良いとは思う。歌詞に関しては、本人のフェイス同様甘い。J-POPで散見されるワードが多過ぎて取り立てて注目できる部分がなかった。それこそミューマガの評論はもっと手厳しいものであったが。平仮名でやんわりとしたタイトルにしているのは優しさとか温もりを感じる側面があり、彼の個性の一つと言えるのかもしれないが、個人的には女々しくてなよっとしているような印象も受けるし、何よりちょっとあざとい。
構成としては、初のアルバムという意味でベスト盤的な欲を出してしまったのかもしれないが、竜頭蛇尾な印象。バイキングで食べたいものを直感的にあれこれ取ったはいいが、食べ始めるとなんでこんなものまで取ってしまったんだろうというそんな満腹感に苛まれる。序盤にクリーンナップ並の打順でシングル曲を並べすぎているのが原因なわけだが。後半の曲の出来が決して悪いとは言わないが、個人的には「100年後」でラストを迎えるアルバムであれば余韻を残してもっと聴きたいなあと思わせる作品になったのではないかと思う。個人的な尺度だが、15曲収録というのは余程思い入れがない人でないと聴くのが辛い領域になる。きゃりーぱみゅぱみゅをあっさりしていると言って、彼をもっさりしていると言うのは、お前の耳がおかしいと言われても異論はないが。
いろいろ厳しい指摘もしたが、曲単体では良い曲が多いので、言葉選びと編曲頼りな部分をもう少し精査すればメジャーアーティストとして伸びる可能性は十分ある存在だと思います。別にJ-POP嫌いで厳しく書いているわけじゃなくて、むしろその逆で興味なかったらこんなに長文書かないよということで視聴の参考にして下さい。
★★★★
あまーーーーーーーーーーーい
Alamaailman Vasarat「Valta(力業)」

Alamaailman Vasarat「Valta(力業)」
フィンランドの男性6人組楽団、Alamaailman Vasarat(アラマーイルマン・ヴァサラット)の新譜。
本記事でアルバムレビュー100記事目に到達(1記事にライトな感想を複数載せて
フィンランドのイメージ。谷山浩子は「フィンランド」という曲の中で"憧れの国"と言っておきながら、"そんな感じの国"と適当にあしらっていましたが、おそらく北欧のそれぞれの国の違いは分からない人が多いのではないかと思います。かく言う私も各国の違いは正直分かりません。スペインに旅行した時にスウェーデン人の親子に話しかけられてビビりましたが、彼らの違いは分かりません。ただ、北欧を含めヨーロッパの民族音楽には不思議な魅力を感じて止まないのです。きっかけはアニソンやゲーソンであったり、J-POPでもこうした音楽を取り入れている方もいるので、そこからこのジャンルに入っていったわけですが、行き着いた先がまさにこのバンド。どうしてこんなところに辿り着くのか。
1997年に結成。"架空世界のワールドミュージック"と評される独創的な音楽性を持っており、そのジャンルは多岐に渡りとても簡潔に説明できる類のものではない。ただ一つ言えることは、とにかくヘンな音楽集団であることは確かです。既にフィンランドでは人気バンドの一つとなっており、来日公演も何度かしています。2013年も4月に浅草で公演済み。浅草というのが、これまたロケーションとしてなんだか可笑しくカオス度が増す。
さて、今作「Valta(力業)」の話ですが、Valtaとは英語のpowerに当たる言葉らしく、それをあえて「力業」と翻訳している模様。平たく言えば某番組と同じく"音楽の力"がテーマになっています。
ちなみに楽曲リストは
1.Riistomaasiirtaja(制圧)
2.Henkipatto(無法)
3.Hajakas(布衣)
4.Norsuvaljakko(巨象)
5.Haudankantaja(墳墓)
6.Luu messingilla(金色)
7.Vaara Kaarme(大蛇)
8.Uurnilla(骨壺)
9.Hirmuhallinto(暴威)
10.Raahuste(賞与)
となっています。日本語タイトルを見てもどんな曲だよというものばかりだと思います。
登場する楽器はサックス、トランペット、チェロ、キーボード、ドラムが主でその他キーの違う楽器が曲によっては出てきます。
重苦しいスタートの「制圧」。何からの制圧なのか。彼らなりの政治的主張が見え隠れする。ミニマルに盛り上がりを見せる序盤を抜けて、移り行くメロディー。不穏で雲行きの怪しい様が感じ取れる。
アラブ風な「無法」。フラメンコっぽくもあってよく分からん。文章化しにくいんですよ。
「布衣」は彼らの得意ジャンルの一つであるハイテンポ曲。ニコ動で言うところのタミフル。いかがわしさ満点の予測不能な展開。ドラムかっけー。チェロかっけー。金管かっけー。ってもう全部良いわけです。
「巨象」は重低音鳴り響くハード曲。なんぞこのベース渋すぎだろ。デカい何かがこちらに迫ってくるイメージで聴いてみると絶望感が半端ない。それこそ「進撃の巨人」みたいな。
「墳墓」はタンゴ風。なんでこんなタイトルにしたのか。野暮ったい導入から社交ダンスっぽくなって、勇ましさいファンファーレみたいになって…ネガなのかポジなのかもはっきりしない不思議感覚。
「金色」もアラブっぽい。石油王的な?簡単にアラブとか書いてるけど、クレズマーとか違いは全然分かっていません。でも聴いてて楽しい。
「大蛇」は今作で最も激しくて高速な曲。とにかくズッコケるくらい速い。蛇がこの速度で来たら速攻で丸のみされるわ。テクニックのある変態は誰も止めることができない。
「骨壺」はおっとり穏やかな曲。タイトルがこれまた不可解。アンビエント的に含まれる音の正体が分からなくて気になる。
「暴威」はタイトル通りなハードロックテイストで、ギターレスでこれだけ重厚な音を生み出せることに驚愕する。まあ弦であることに変わらないからね。一音一音の重みが耳に響く。
「賞与」は日本盤のボーナストラック。ボーナストラックだから「賞与」なわけですか。まんまですね。ただボーナスの喜ばしい雰囲気は全くないわけですが。
日本の音楽で知名度があるところで言えば、渋さ知らズとか東京スカパラダイスオーケストラみたいな楽団に近い存在ではないかと。ただ、これらの楽団とは一味違う異世界へのトリップを彼らは体験させてくれると思います。各曲レビューがだいぶ雑ですが、とりあえず激しいな、悲しいな、ノレるなみたいな直感的な面白さがふんだんに盛り込まれたアルバムになっております。フィンランドと言えば、きゃりーぱみゅぱみゅ人気が日本よりも先にやってくるような国。様々な音楽に対する寛容さが窺えますね。日本もいろんな音楽を受け入れる風潮になってもらいたいものです。
今作収録の「金色」。アルバム音源の方が激しい。
彼らと言えばコレな気がする。今作未収録の「Astiatehdas」。