チャラン・ポ・ランタン「ふたえの螺旋」

チャラン・ポ・ランタン「ふたえの螺旋」
ボーカルのももとアコーディオンの小春の姉妹ユニット、チャラン・ポ・ランタンのフルコースアルバム。(1stフル?)
妹ももの20歳の誕生日に向けた3部作の最後を飾る作品です。古き良き哀愁あるアコーディオンに小節の効いた愛嬌あるボーカル、愉快なバックバンドの演奏、そして毒を含む痛快な歌詞。ファンタジー系かと思いきや生々しい現実を突きつけてくる曲も結構あるのが彼女たちの特徴の一つかと思います。本人らも「こんな音楽を好きなモノ好きがこんなにもいるのか…」と言う始末。あっ、ここにもいます。
Alamaailman Vasaratのような(例えが例えになってない)出だしのインスト「今日のさよなら -overture-」から幕を開ける。全体の構成としては、インタールードの「歯車」、「鍵穴」を挟んで3つのグループに分けることができます。
まず序盤、彼女らのイメージ通りの「サーカス・サーカス」。サーカスって表舞台の華やかさに対して裏の影の部分がクローズアップされがちなのは何故なんだろう。この曲もそういう不穏さがある。「クシコス・ポスト」のメロディーを拝借した「家なき子のドロシー」は軽快なリズムの曲だが、オチがおぞましい。「世界のフルコース」もフルコース全否定されててなんだかよく分からない。どういう状況なの?これ。
問題作連発の中盤、「今更惜しくなる」は語りが若干サンホラ第1期みたいな雰囲気で穏やかではない。将来の夢と現実とのギャップを嘆く詞がとにかくエグい。なんだこのリアルさは。特に終盤の叫びが本来の意味でヤバい。「中野から新宿までの間にカバンを電車に忘れた!」はタイトルの如し。「エリーゼのために」のメロディーで鞄を忘れたことのみを歌う。妙にリアルな日時が詞にあるが実話なのか?「Oppai Boogie」はツッコミどころしかないOppaiソング。どっちとは言わないがバカと天才は紙一重ですね…そしてここからの落差が半端ない「みきちゃんの目玉焼き」はじめっとした浮気ソング。初期の谷山浩子並の才能があるかもしれない。
終盤、"ライラライラライラライ"と巻き舌気味で歌う「滲んだ希望」、カレー曲「カレーのお誘い」と怪しい魅力ある曲がまだ続く。「ライムライトを浴びて」はボーカルの表現力に圧巻される。曲の主人公であるステージに立つ歌手を演じ切る様に思わず息をのむ。ホントに20歳になったばかりの娘なのか?「最後の晩餐」は愉快なアッパー曲。楽しそうです。この終わりの2曲はライブで観たらさぞ凄いんだろうなあ。
音楽的なバックグラウンドは昭和歌謡的なレトロな音楽であり、すでにだいぶキャラが確立されているのは彼女らの長所であり短所にもなる点だと思います。クラシックからの引用は一聴して親しみやすい曲も多いのですが、すでに多くの先人たちが通ってきた道であり多用し過ぎると飽きるのも早い。今後の伸びしろという意味では、作曲のオリジナリティを強めていく必要があると思います。ただ、さらっと毒づく歌詞は個人的には好きですし、ボーカルの表現力もめきめき向上しているのは非常に良い点。このご時世、アコーディオンが主体のポップバンドもそうは出て来ないはずなので、今後さらに独自の道を突き進む素質は十分あると思います。
★★★★
トーマ「アザレアの心臓」

トーマ「アザレアの心臓」
ニコニコ動画で人気のVOCALOIDクリエーター、トーマの1st。
珍しくボカロ作品の感想です。個人的にこのシーンが熱かったのは2010年くらいまでで、それ以降は段々クールダウンしているといった状況。世間的には逆に盛り上がってきているのかもしれませんが、メディアミックスとかで勝負してくる曲が多くなり、単なる"作曲家"が成功する場ではなくなってきているのが個人的に離れた理由の一つかもしれません。別のところで物語化されても、もうついていけないわけです。
さて今作ですが、一枚絵の動画でも純粋に曲で勝負できるタイプの作品を多く生み出しているトーマの初の全国流通盤となります。動画のタグで言えば「驚異的な中毒性」がよく付いているイメージ。このタグの動画、ボカロに限らず好きだったりします。他に好きなタグは「VOCALOID幻想狂気曲リンク」とか。特徴としては、初音ミクだからこそ歌える詰め込まれた語彙とそこに乗っかる中毒性の高いバンドサウンドが挙げられます。近いところではwowaka、日向電工あたりも好きですね。
どこがサビだよというぐらい展開の変化が早い「潜水艦トロイメライ」でスタート。序盤の核となるであろう「リベラバビロン」も目まぐるしく展開が変わる。最後の最後までギアチェンジを続ける貪欲さが窺える。3曲目「サンセットバスストップ」になって展開がようやく落ち着いてサビも分かりやすくなる。3分前くらいのピアノ間奏が好き。
「魔法少女幸福論」はタイトル通りのインスパイアぶり。流行ってますもんね…「envycat blackout」は加速するサビがいい感じと思ってたら加速し過ぎ(笑)アウトロがだいぶベタなフレーズになっている等、突き放したり寄せ付けたりが忙しい。「九龍イドラ」は好きなチャイナアレンジ。何歌っているのかはさっぱりだが。
「廃景に鉄塔、「千鶴」は田園にて待つ。」と「心臓」は本人歌唱。本人ボーカルの曲があるとは意外だったが、今作においてはどうしても薄口の部類に入ってしまう。詞は一番聞き取りやすい。当たり前か。ヴィジュアル系寄りな甘いボーカルは歓喜する人はするんじゃないでしょうか。「心臓」はアレンジがどことなく残響のバンドっぽい。
切なさを強調したJ-POP寄りの「オレンジ」は人に提供してもよさそう。提供せずとも勝手に歌ってる人はいっぱいいるんでしょうが。「クジラ病棟の或る前夜」も同じくきれいめでタイトルの"クジラ"から海を連想する音。
イントロから得意パターンに入った感じのリード曲「アザレアの亡霊」。この曲がするっと受け入れられればこのアルバムは面白く感じるでしょう。
作曲は展開のトリッキーさとかテンポの速さとかクセが強いが、一つずつのフレーズを聴くと割りとポップなことをやっている印象。人間のバンドで言えば、凛として時雨とかに近い。歌モノとインストの狭間を行くイメージ。編曲は全体的にごちゃっとしているが、混沌さをあえて出しているのだろうし、ここぞという聴きどころでは音数をしっかり減らしているのでそこまでは気にならない。詞については彼に限ったことではないが、中国人にも理解しやすいであろう漢字過多なものが多い。独自の世界観はあるのだろうが、全体的に感情移入するほど取り立ててこの表現が良いとかいうのはなかったです。語感という観点で言えばいい言葉選びをしているとは思います。ややパターン化されているハイテンポ曲をさらに深化できるか今後に期待ですね。
★★★★
竹達彩奈「apple symphony」
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竹達彩奈「apple symphony」
「けいおん!」出演でブレイク、2012年に歌手デビューした女性声優、竹達彩奈の1st。
アイドルの範疇に入る声優歌手の曲は滅多に聴かないのですが、今作はアルバム曲の制作陣に川本真琴、奥華子、永野亮と気になる名前が並んでいたので聴いてみました。豪華制作陣が手掛けた、彼女のキャラクター重視のバラエティー豊富なアイドルポップスがずらりと並んだ一作となっています。割りと辛口感想です。
メルヘンなイントロ「apple symphony」からいきなりの珍曲「ライスとぅミートゅー」が始まる。なんだこの曲(笑)自身作詞の"お肉ソング"というネタ特化ぶり。でも小林さんの書くメロディーは普通に良いですよ。メロディーは。
Cymbalsの沖井礼二による曲はデビュー曲「Sinfonia! Sinfonia!!!」と「リズムとメロディの為のバラッド」。このアレンジはどう考えてもCymbalsの王道スタイルそのものですね。ボーカルとの相性は確かに良い。末光篤の「Yes-No」と「♪の国のアリス」はどちらもピアノが強調されたSUEMITSUナンバー。この方の提供曲は毎度毎度手堅いなあ。この作曲家2名の曲は南波志帆が歌ってもしっくりきそうな感じ。現に末光氏は曲提供していますし、Cymbalsつながりで矢野氏が相当関わっているので音楽性が被るのは無理もないか。とりあえずおしゃれ。
川本真琴の「G.I.W.」と「春がキミを綺麗にした」。「G.I.W.」は初期カワマコを彷彿とさせる、というかあの名盤「川本真琴」に入っていても違和感がない曲。今作を聴いて最大の収穫だったのはこれ。ボーカルはもはやモノマネの域だが確かに似ている。本人が好きなんだろうなというのは伝わってきます。「春がキミを綺麗にした」の方は書き下ろしのようですが、キュートさ全開でいいんじゃないでしょうか。
APOGEEの永野亮の「ナナナナンバーワン」は数え歌というシンプルな構造の曲ながらこっそりと様々なアレンジを仕掛けている。巧い、巧すぎる。ボーカル差し置いて遊びまくってる感すらある。
奥華子の「HIKARI」は今作一番のしっとり曲。全体的に「変わらないもの」の焼き増しっぽくはあるが。
作詞いしわたり淳治、作曲はまさかの筒美京平というシングル曲「時空ツアーズ」はなんかいろいろセンスが古風だなと思った。何年も前から「みんなのうた」にあったみたいな曲。
挨拶代りの1stフルということで、これといって意外性のある突飛な曲を入れることなくかなり無難な仕上がりになっていると思います。"キタコレ"とか歌っちゃってる曲が約1曲あるがぶっ飛んでるというほどではない。発注先がそもそもカワマコを除けば"安定感の塊"みたいなメンツなのでそうならざるを得なかった感じですが。無難を通り越してちょっと古いなあと思ってしまう曲もいくつかあり、彼女に特に思い入れのない人が聴いておっと思うような新鮮さのある曲は多分ほとんどない。制作サイドで見れば、カワマコが好きな人は聴いてみてもいいかもしれないが、奥さんが好きな人は特に聴く必要はないという印象。先に触れた南波志帆共々、もうちょっと毒っぽい曲を出してもいいんじゃないかと思うようなどうも腑に堕ちない感覚を味わえる一作。
★★★☆
MVまで作っていたとは…